初心者マーク
それは冬のある日、 つい一週間前に運転免許証を取ったばかりの拓斗君に、兄貴の「ひとし」からの電話があった。
蔵王にスキーに行ったきり なかなか帰ってこない兄は、スキーで 足を折ってしまったのだ。
蔵王の病院で 治療費の請求を受けたが、お金が足りない。
気まずそうに「あの〜・・今 持ち合わせが無く後で・・」病院の受付に申しでた。
自分がスキーで 怪我をするとは 誰も予想しない。
その病院は スキーに来て怪我をした場合 お金の足りない人が結構いるらしく、慣れているような感じの応対で 少しほっとする。
ギプスと松葉杖で 旅館に帰ってきたところで、旅館に払うお金も無い。
そこで思いついたのが 運転免許を取立ての弟の拓斗。
「拓斗に迎えに来させよう、あいつ車 持ってるし、練習にもなるだろう。」
電車で帰るのはたいへんだし、弟にお金を持って車で 迎えにくるように頼んだ。
だが問題は有った、 先にも書いたが まだ拓斗は免許を一週間前取ったばかり。
当然 ためらったが、やはり兄貴を迎えに行くことになった。
拓斗は自分の車を、免許取得前に買って持っていたのだ。
大学生の拓斗収入源はパチンコ、儲けたお金を貯めて、車を手に入れていた。
先輩からから十万円で譲ってもらった、と言うより押し付けられたのに、本人は安い買い物をしたと思っている。
ボロボロのスカイライン(13年落ち)が彼の愛車だ、お守りは、ゴム製磁石の初心者マーク。
「さあ 出発準備だ」 先ずはガソリンスタンドへ 「ガソリン満ターン」彼は、響きの良い言葉だと思った。
だが、アルバイトの女子店員が困惑した声で、「あの・・ォ」
彼はすぐさま思い出した、給油口部のハッチが 落ちないように ガムテープを張り おさえてある。
また ガムテープの張り方も、30cmくらいの面積で 貼り付けてある。
自分でガムテープを剥がし ガソリンを入れてもらった。
冬の蔵王にいざ出発。
何しろこれから行く先は彼にとって未知の世界。
当然雪道など走ったはずがない、 完壁に地図を頭にたたき込もうと 前日から地図に目を通していた。
心配で眠れない・・
何度も地図を見直しているうちに、ようやく眠たくなり就寝、結局 夜更かしをしてしまった。
出発当日。
しっかり寝坊をした、六時には出発の予定だったが、すでに十時を回っていた。
兄貴に電話を入れ茅ヶ崎を出るのが、予定より遅れ今出発する事を伝えた。
一方 兄貴のひとし君は 旅館で荷物をまとめ、部屋から荷物をロビーに移し、拓斗待っていた。
神奈川県から蔵王までなら、夕方には迎えに来ると思っていたが 予定が大幅に狂い病院の支払いなどを考えると気が重たくなっていた。
ひとし君の所持金は底を尽きかけ ジュース一本買うのも ためらっていた。
ひとしの昼食はオレンジジュース一本。
夕方になれば 拓斗が来て、腹一杯食べられると思い、それまではエネルギーを 使わないように 自分の居場所として、ロビーの椅子に 腰を落ち着かせていた。
旅館には スキー客が出入りする、ひとしの足を がっちりと包んでいる石膏を チェック、見逃しはしない。
当然 気の毒そうな顔をしているが「内心は何て思っているのか・・・」
「スキー折ったんだな ばかなやつ」と 心のなかでは ケガをした奴を 軽蔑しているはずだと、ひとしは思い込んでいた。
そんな気持から 人の目が気になり 針のむしろ状態に感じていた。
一方 拓斗の方は 前日の計画を実行に移すべく さっそく車に乗り込んだ。
ガソリン良し!、親から預かったお金も持った。
さっそく出発 いざ蔵王へGO!
出発して暫くしてから、拓斗は「はっ」とした、地図を忘れた事に 気が付いたのだ。
前の夜眠れないので地図を見ていた、「東京に入ったから首都高速だな」と 何とか昨夜の知識をフルに使い、「地図が無くても何とかなるかな…」
「まっ地図はだいたい 頭に入っているからいいや。」と思った。
高速道路を走ったことが無い拓斗は ドキドキしながら運転に集中する。
ガッチリ握り絞めたハンドル、心なし息づかいも荒く 車を直進させるのに神経を使う。
手には脂汗、 何とか広い三車線の道路へ 狭い首都高速から抜け出てほっと一息ついた。
これで夕方には蔵王に着けるだろうと逆算をする、「気分いいねぇ」と独り言。
まだ初心者だが、 暫く運転をしていたら、大分 余裕が出てきたのだが・・・
雪国に行くのに 地図どころか もっと大事な物を忘れていたが、まだ気がついていない。
余裕が出てきた拓斗は、「あと6時間位かな〜」。
カセットテープで音楽を聞きながら 運転にもだいぶ余裕が出てきた頃・・
「だいぶ走ったな」と道路の案内表示に目を移す。
「諏訪?」・・「あれっ?」走っている所が ち が う ・・
期待どうり彼は受けを狙ってか 中央高速を走っていた。
諏訪(すわ)と言う地名を知っていたのが まだ救いで、違う方へ行っている事が
はっきり分かる拓斗であった。
気持ちは、「どこかで(高速道路)ユーターン出来る所無いだろうか」と探していた、パニックである。
ユーターン出来ないことにすぐ気が付いた。
急いで次のインターで下りなければ 当然高速代金もしっかり取られ、時間もだいぶ損をした。
それより、お金が足りなくなっては大変、。
インターで降りたが、再び高速道路へ入るのをためらい 一般道を走る事にした。
このような時は慌ててはいけないのだが 当の本人は それどころではない。
交差点では、信号をよく見ていないので、前の車に 寸前でぶつかりそうになったり。
山道は山道で カーブに合わせハンドルを回す事自体が まだまだ。
回しすぎたり回し足りなかったり「わーぁーっ 壁が・側溝がー」・・
「よっ・かった〜」・・・・・ 「うわ〜前に車ー!」・・ハンドルを握る手が 汗で滑る。
額にも汗がにじむ、 足は震え 息が荒い、時間も お金もだいぶ使ってしまった。
だが 時間もかなり無駄になっている。
意を決っし 再び高速へ ぎくしゃくとした運転、また合流でクラクションが浴びせられる。
『どーってことない、慣れたものさ 直線に成れば スカイラインは早いんだ。』
スピードを出しながら 『大分上手くなってきた』と 自分に言い聞かせた。
また 音楽を流しながら 再び東京・首都高速 東北自動車道をめざしたが 行き方が判らない。
一回高速から下りてみようと決心した。
下に下りた拓斗に 待ち受けていたのは 車の多い 東京。
車の洪水状態の中で クラクションの洗礼を受け 何とか路肩に停車した。
歩いている人に東北道への道を聞いた。
再び 首都高速に入る道順だった。
高速に再び入り直し、目指すは東北道、だが どうやら拓斗は 首都高速を更に2周は回ったらしい。
どこから東北道だか、2周もすれば判ってきた。
なんとか 東北自動車道に・・・ 「ここだ ここだ」と一人胸を撫で下ろしていた。
時間を随分無駄に使い さすがに兄の事が気になって 腹が減っても食事どころではない。
周囲は 暗くなって来た サービスエリヤでトイレ休憩を取り 食事をしょうとしたが
あいにく もうレストランは閉まっていた。
自動販売機でハンバーグをぱくつき 腹を満たした。
一緒に 車の食料(ガソリン)も満たすことにした。
最初に 道を間違えたのは、持ってくるはずの地図を忘れたからか、高速に走り慣れないのが悪かったのか。
中央高速を走り、諏訪の付近まで行っているので、時間も所持金も心配に成ってきた。
「このまま走ると高速代金がかなり高くなる。」
それが嫌で また高速を下りてしまった。
ところが、いざ一般道に出てみると まったく どこを走っていたのか 拓斗には判らない。
無論 運転に自信が無い拓斗は 何回も死にそうに成りながらも カンバッテいた。
東北の冬は 当然 雪道で 夜は凍り、ミラーバーンや圧雪された状態で、ツルツル。
「わーわー」言いながら気が付いたら 180度(ワンエィティ)で後ろ向き。
後ろからきた車のドライバーの顔が なぜかよく見えた。
「何も あそこまで大きなメン玉をしなくてもいいだろ」と心の中でつぶやき 一応おじぎをした。
坂道に差し掛かると 自転車より遅い、それでも 車のお尻を 右左に振りながら走った。
・・・そう、拓斗は、一番肝心のチェーンをわすれたのだ。
忘れたというより 持っていない、購入をする事すら すっかり忘れていた、頭の片隅にも有りはしなかった。
だいぶ疲労が重なって来ていた 坂道を何とか走っていたが 車が進まない。
変だと思っていると、徐々に後ろに下がり始めた。
更に アクセルを余計踏み込むと、 どんどん後ろに下がって行く。
後ろから来た車が驚いて、クラクションを鳴らしていたが、 それでも止まらないと判断した後ろの車は、バックをした。
後ろの車もパニック
彼もパニック !!!何とか車が止まった。
当然 抜かしていく車から罵声が浴びせられたが おじぎと笑顔でごまかす。
これでは 走れないとチェーンを買い着ける事にした。
少ない運転知識の中から必要を感じたのは当然 と言うより必然。
だが時間を見ると夜の十二時くらい、こんな真夜中、一般道の山道でタイヤチェーンなどどこで買えばいいのか判らない。
真夜中でも ガソリンスタンドで 買えるかも知れないと思い 山道に差し掛かる前に スタンドが有ったのを思い出し 戻ることにした。
スタンドの営業時間まで きにしていなかったが、「シマッター 11時までだ〜閉まっている」。
結局 スタンドの前で 朝の開店時間まで待つことにした。
ここ、二日間ろくに寝てない、、それにしても外は寒い、ガソリンスタンドの前にある 自動販売機で 缶コヒーを買い 車の中でウトウト眠る。
ガソリンが残り少ない、だがスタンドの前だから 心配はなっかった。
ガラスを叩く音がして スタンドの人に起こされた。
ようやくチェーンを買えた、ガソリンスタンドの人が一言「ここまでノーチェーンでよく来られましたね」、
拓斗は 誉め言葉と勘違いをし ニコニコ満面の笑みを浮かべた。
決して誉めたのではなく、無謀なドライバーだと思われていたのに。
ガソリンも入れ 道を聞き 再び蔵王へ向かった。
やけにまぶしい朝日が ピッカリと 彼を照らしていた。
あくびが出る 腹も減る だが兄貴のひとしが待っている。
食事を取る時間も惜しんで 道を聞きながら 相変わらずの恐怖の運転で ひたすら
目指すは 蔵王スキー場。
タイヤチェーンの代金も計算外、ガソリン代も予定より掛かった。
高速道も道を間違えて余計な出費、ろくに食事も取らなかった。
「お金 足りないかも・・」。
壮絶な運転を繰り広げ 高速代も浮かすため途中でおりたりした。
兄ひとしの待つ旅館へ着いたのは 翌日の午後だった。
待ちくたびれた ひとしの第一声は「ばっ・ばがやろ〜 なにやってたんだー!」と声が
飛んだ。
ひとしにしてみれば 前日の朝から 旅館の玄関で待っていたのだ 6〜7時間で到着する
と踏んでいたが 幾ら待っても来ない。
心配にもなるし 旅館の人も「部屋が開いているので どうぞお使い下さい」と言ってくれるが
まさかお金が心配とも言えず 「ここで結構です」と ひとしなりに戦っていた。
電話を掛けるお金も ジュースに消えていたのだ お互いに疲労していたのだろう
喧嘩をする気には成らなかった。
拓斗君 あり金を兄貴に渡した「これだけかよ」と兄ひとし。
途中で 使ってしまった いきさつを詳しく車の中で話す。
そんな 拓斗を見て 冷やかな視線を浴びせる兄ひとしであった。
それでも旅館に料金を払い 病院の支払い済ませた。
だが、残りのお金二十円では家まで帰れないのは明白であった。
名案を思いついた 警察でお金を借りよう 二人は警察へ向かった 警察に行けば何とか
成ると大きな期待抱いていた。
二人の期待を簡単に裏切る警察 お金を貸すシステムは当然有りはしない。
当然で有るが警察は銀行ではない。
二人はそんな事はお構いなし 土下座をして頼み込んだ 警察も迷惑な事だろう。
色々の手を使い何とか借りようとしたが 無駄で有った。
悔しさで目には涙が浮かび 最後に捨てぜりふに サラ金の場所を聞いて 出ていこうとした。
その時 話を側で聞いていたおばさんが 話し掛けてきた 同情を買ったのか
何と そのおばさんが お金を貸してくれる事となり 2万円を借りれたのだ。
地獄に仏と 帰路に向かうが ひとしの恐怖は家に着くまで終わらない 。
ひとしが運転を交代して、ギプスをしている足を使い、「途中 私が運転しましたし、家に着くまでに百回位
死にそうに成りました 」と 言っていたが・・・・
きっとギプスの足で 車の床を 踏み抜かんばかりの力で 踏みつけていたのだろう。
それ以来 弟の車には乗っていない。
拓斗は、法律で守られている初心者マークがあれば、安全だと思っていた。
(他の車が)「危ない走り方をするから、特に東京は嫌いだ、ちゃんと初心者マークをつけていたのに・・」と言っていたが・・・
危ないのは・・拓斗・・・きみだ!
初心者マークは、水戸黄門の印籠じゃない。
PS 「いくらバッテリーが上がりそうだからと言っても、雨の日はワイパー動かせよ、助手席に乗っていても怖いよ!さっきバーさん轢きそうに成っていたじゃん。」
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